『グラデーション』2話ー⑦
○ 繁華街・道(夜)
ゼミ仲間と飲み会の帰り道の早希と怜
央。
ほろ酔いの学生たちが一人また一人と帰
路に着く。
残った早希と怜央は二人盛り上がりなが
ら夜の街へ向かう。
早希「ねー、この辺に怜央の行きつけの店っ
てないの?」
怜央「なくはないけど。行く?」
早希「行くー」
○ バー店内(夜)
カウンター席の早希と怜央。
早希「大丈夫なの?」
怜央「んー、多分。田中先生ゴーサイン出し
てくれたし。こんなアプローチするのはお
前ぐらいだって首捻ってたけど。ま、成績
はともかく卒業はできんじゃね」
早希「卒論もだけど、卒業した後よ。就活う
まくいってないんでしょ」
怜央「いやーん。早希ちゃんが心配してくれ
てるー、嬉しーい」
早希「怜央。いつまでもふざけてる場合じゃ
ないよ……お父さんともうまくいってない
んでしょ」
怜央「……あの人とは医学部の受験失敗して
からずっとだよ。『お前にはもう期待しな
い』ってね」
早希「お兄さん、いたよね」
怜央「うん、姉貴とね。二人ともしっかり大
学で医者やってる。いずれどっちかが家継
ぐんじゃね。ま、家の心配がなければ他は
どうでもいいって思ってる人だから、あの
人は」
早希「……」
怜央「だから一度失敗した私に、絶対医者に
なれとは言わなかったし。息子として不合
格になった私には興味なくなったんだろう
ね。私も一浪すんの面倒くさいって思って
入れるとこ入ったんだけど、私を諦めてく
れたんなら、それはそれで自由にできてい
いかな、ってカンジでーす」
早希「怜央がそれで納得してるんならいいけ
ど」
怜央「してるよー。だって医学部落ちたおか
げで、早希ちゃに会えたもーん」
早希「それ、ウザイから」
怜央「(笑)」

店に新たな男の客・八代健(29)が入
ってくる。
八代は怜央たちの後方のテーブル席に着
く。
怜央「ね、式部さん、友達となんかあっ
た?」
早希「ううん、知らない」
怜央「ふーん。『Gradation』に来た時に、
聞かれたから」
早希「何て?」
怜央「友達を大切にする方法」
早希「……あ。何かそれっぽい事、私言った
かも」
怜央「式部さん、早希の言葉に敏感だよね」
早希「……」
怜央「大切な後輩なんでしょ。相談にのって
あげたら」
早希「……いやいや。あんたに言われなくて
も分かってるから。密かにうちのエースに
って期待してんだから」
怜央「はは、確かに。パーフェクトまであと
一人だったもんねー(笑)」
早希「?」
怜央はグラスを手に立ち上がる。
怜央「じゃ、次のゼミで」
早希「……」
怜央は後方のテーブル席に移動し、八代
と談笑を始める。
早希「行きつけの店じゃなく、待ち合わせの
店じゃん」
早希は会計を済ませ店を出て行く。

○ カオルの部屋(夜)
食事中のカオル。
カオルのスマホが鳴る。
画面には母・智美の名前。
(以下カットバック*)
テンションの低いカオル。
カオル「もしもし。何?」
智美「何って何よ。ぶっきらぼうなんだか
ら」
カオル「だから何」
智美「鳴沢の圭ちゃん、覚えてる?」
カオル「鳴沢? ああお父さんの弟の、山梨
の……誰だっけ?」
智美「賢二さん」
カオル「はいはい。賢二おじさんとこの圭ち
ゃんね。覚えてるよ」
智美「今度結婚するんだって」
カオル「え、そうなの。でも、マレーシアで
働いてたんじゃなかったっけ。確か寿司チ
ェーン店のサブマネージャーだよね」
智美「そ。で現地の人とお付き合いして。そ
れで今度八月に日本に帰ってきて式挙げる
んだって」
カオル「ふーん。日本で挙げるんだ」
智美「式たってお披露目の集まりだけどね。
で、あんたはどうする? 帰ってくるんで
しょ、夏休みなんだし。参加でいいわよ
ね」
カオル「うーん。そんな先の事なんて分かん
ない」
智美「先たってすぐじゃない。ほんとにも
う」
カオル「……」
智美「どした? 元気ないよ」
父・大介が電話中の居間に入ってくる。
カオル「……ちょっと、友達がね」
智美「喧嘩でもした?」
カオル「とは違う……助けてあげたいけど、
どうしていいか分かんない」
智美「……そっか、苦しいね」
大介は二人の会話が気になる。
カオル「お母さんも、そんな経験ある?」
智美「そりゃ、あんたより長く生きてるから
ね」
カオル「だね」
智美「でも、そのお友達には悪いけど、お母
さん少しほっとした」
カオル「え、なんでよ」
智美「自分が苦しくなるくらい、助けてあげ
たいって思える友達が、あんたにもできた
んだって」
カオル「……」
○ 式部家・居間(夜)
受話器を置く智美。
不機嫌な大介。
大介「薫(かおり)か?」
智美「ええ。夏休みの予定、まだ分かんない
んだって」
大介「ったく」
智美「あの子も、あの子なりに頑張ってるみ
たいよ」
大介「……」
不機嫌なまま居間を出ていく大介。

○ 未憂の部屋(日替わり・夜)
明かりのない部屋。
机の上のスマホが鳴り止まない。
次から次へとディスリコメントが届く。
スマホの横には愛美の顔が写った、プリ
クラ写真が置かれている。
部屋に未憂の姿はない。
○ 駅前(夜)
帰宅途中のカオルと部活仲間。
駅前に小さな人だかり。
その中から歌声が聞こえてくる。
カオルたちは「何々?」と、人だかりの
中へ入っていく。
最前列に立ったカオルたちが見たのは、
ひとりギターを弾き語る、褐色の女性シ
ンガー・リラ(20)。
カオル「へー。私この歌好きかも」
リラの歌声に聴き惚れているカオルのス
マホに、百合からのLINEが届く。
カオル「え……」
画面には『ミユ死んだ』の文字。
呆然と立ち尽くすカオル。
リラの歌声が響き続ける。
*カットバック→場面が交互に切り替わる
第2話終わり
第3話ー①へ続く