『グラデーション』2話ー⑥

グラデーション2話ー⑥

『グラデーション』2話ー⑥

○ 雨宮陽斗の部屋(夜)
   陽斗に勉強を教えているカオル
 カオル「いい? 因数分解の襷掛けは慣れだ
  から。できるだけ練習問題やって数をこな
  してね」

 陽斗「はーい」
   鞄から問題集を取り出すカオル。
 カオル「因数分解の問題集を買ってきてあげ
  たから、時間までやろっか」
 陽斗「えー、あと15分しかないっすよ。たま
  には、ね先生」
 カオル「文句をいわない。はいスタート」
 陽斗「オニィー」

    ×     ×     ×
   素直に問題集に取り組む陽斗。
   ふと、心ここにあらずになるカオル。
 陽斗「先生、時間すよ」
 カオル「……」
 陽斗「カオル先生!」
 カオル「あ、ごめんなさい。時間だね、終わ
  ろっか」
 陽斗「どうしたんすか?」
 カオル「……陽斗君の学校って、イジメとか
  ってあったりする?」
 陽斗「は? なんすか、いきなり」
 カオル「ごめん、だね。忘れて」
 陽斗「どーなんすかね。あるかもしんない
  し、ないかもしんないし」
 カオル「何、それ」
 陽斗「てか、そもそもイジメなんてそんなも
  んしょ。見えないところで色々やらかしち
  ゃってんのがイジメなんすから」
 カオル「ま、確かに……。ね、まさか陽斗君
  はやってないよね?」
 陽斗「いやだからカオル先生。イジメの真犯
  人はホントのこと言わないから」
 カオル「え⁉︎」
 陽斗「嘘嘘嘘。俺そんなガキみたいな事しな
  いって。そもそも他人ひととつるむのあんま好
  きじゃないんすよね。そこまで他人に興味
  ないし」
 カオル「……」
 陽斗「ホントだって」
 カオル「そ、だよね。ね、そういうイジメし
  てた子たちってその後どうしてんだろ?」
 陽斗「どうって?」
 カオル「後悔とかしてるのかな?」
 陽斗「どうだろね。する奴もいるししない奴
  もいるんじゃね。でも正直、後悔するよう
  な奴は初めからイジメなんてするとは思え
  ないけど」
 カオル「う、うん、だね」
 陽斗「ねえ、大学ってイジメの事なんかも勉
  強したりすんの?」
 カオル「……みたいなもんかな」
 陽斗「ふーん。じゃ、もしカオル先生がイジ
  メられたら、俺助けてあげるからね」
 カオル「はははは。何嬉しい事言ってくれち
  ゃってんのよー。じゃ、陽斗君は私の騎士ないと
  だ。ちょっと頼りないけどねー(笑)」
 陽斗「えーどこがどこが。んな事ないからー
  (笑)」

○ カオルの部屋(夜)
   PC画面を凝視しているカオル。
   東翔大学・非公式掲示板が映し出されて
   いる画面には、未憂への誹謗中傷が際限
   なく溢れ出ている。
   カオルは堪らず仰向けになる。
 カオル「こいつらキモ過ぎる」
   カオルの目には天井だけが映る。
 カオル「こんなの、もし未憂が見たら……そ
  りゃ大学なんて来たくなくなっちゃうよ
  ね」
   カオルの脳裏にふと早希の笑顔が浮か
   ぶ。
    ×     ×     ×
(イメージ)早希の笑顔。
    ×     ×     ×
 カオル「こんな時に……なんか私嫌だな」

○ 百合の部屋(夜)
   壁には推しキャラのポスター。数体のフ
   ィギュアが散見され、本棚には整理され
   た漫画が隙間なく並べられている。
   フィギュアの一体を手に、夏生の声真似
   をするようにアテレコを始める百合。
 百合(夏生)「それは自分自身への戒めでし
  ょうか?」
 百合(本人)「なーにが戒めだっつーの。ん
  な訳ないちゅーに」
 百合(夏生)「立花さんの見る目がなかっ
  た、節穴だったという事です」
 百合(本人)「おいおい。言っちゃってくれ
  るねー。そりゃ見誤る事だってあるでしょ
  うが。出会って二ヶ月も経ってないんだか
  ら」
 百合(夏生)「ご自身の目で見たものを信じ
  てみる、じゃだめですか?」

 百合(本人)「見てるわよ私は。さっきから
  好き勝手な事ばっかり言ってるけど、あな
  たに私たちの何が分かるのよ。未憂はね、
  母子家庭で高校ん時からアルバイトしなが
  ら頑張って大学入って……いっつも明るく
  て、三人でカラオケ行って、三人でお泊ま
  り会やって、そんで……」
   いつの間にか涙声の百合。
 百合「これからだって、いっぱい色んな事
  するんだから……見損なうってなんだよ
  ……私……」

2話ー⑦へ続く


      

 

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