『グラデーション』2話ー⑤

グラデーション2話ー⑤

『グラデーション』2話ー⑤

○ 東翔大学キャンパス・庭
   ベンチで一人スマホを見ている百合。
   画面を凝視しているその表情は険しい。
   授業を終えたカオルが百合に気づく。

 カオル「百合? 授業終わった?」
 百合「ん? うん」
   百合は慌ててスマホ画面を消す、
   カオルは百合の隣に腰を下ろす。
 カオル「……」
 百合「……」
   わざわざ隣に座り沈黙を続けるカオル
   に、焦れる百合。
 百合「何? 言いたい事あるんじやないの
  ?」

 カオル「未憂、授業に来ないね」
 百合「そう、だね」
 カオル「元気にしてるかな?」
 百合「どうだろ」
 カオル「バイトとか行ってんのかな」
 百合「さあ。元気だったら行ってんじゃな
  い」
 カオル「ご飯、ちゃんと食べてるかな?」
 百合「そりゃ、実家だからね」
 カオル「宿題、大丈夫かな」
 百合「いや、大学にんなもんないでしょ」
 カオル「ちゃんとお風呂入ってるかな?」
 百合「は?」
 カオル「歯磨いてるかな?」
 百合「で、何が言いたいわけ?」
 カオル「一緒に行かない?」
 百合「どこへ?」
 カオル「未憂んち」
    スマホをぎゅっと握りしめる百合。

○ 未憂の家・玄関前
   恐る恐る呼び鈴を押すカオル。
   隣には百合。

 未憂の母・憂子(43)の声「はい、どちら
  様でしょ?」
 カオル「あ、は、はい。すみません。えっ
  と、大学で未憂さんの友達で、式部と言い
  ます」
 憂子の声「……」
 カオル「その、未憂さんずっと授業休まれて
  るんで、どうされたのかなって、心配にな
  って……あ、ノート。授業のノート持って
  きました。コピーしたやつ」

 憂子の声「……」
   憂子の返事はない。
   と、ガチャっと不意にドアが開き、憂子
   が顔を出す。
 憂子「……」
 カオル「あ、初めまして。式部カオルと言い
  ます。あのこれ、ノートをコピーしたやつ
  です……未憂さん、いかがですか?」
 憂子「……ありがとうございます。では」
 カオル「あ、あの! 未憂さん、大丈夫です
  か? 体調、崩されたんですか?」
 憂子「……」
   カオルを睨む憂子。
 憂子「いえ」
 カオル「それじゃ、どうして」
 憂子「お二人はよくご存知ですよね」
 カオル「やっぱり、未憂さんがしてた中学時
  代のイジメのことですか? その頃の友達
  に会った事が原因ですか?」
 憂子「……」
 百合「未憂は本当にイジメなんてしてたんで
  すか? 私たち本当の事が知りたいんです
  !」
   我慢していたものが溢れる憂子。
 憂子「一番悪いのは何も知らない! 何も知
  ろうとしない人たちじゃないですか!」
 百合「……」
   激しくドアを閉める憂子。
 カオル「……」
   呆然と立ち尽くす二人。

○ 電車内
   落ち込む二人。
 百合「……何で未憂んち行こうと思ったのよ
  ?」
 カオル「……」
 百合「試験が近い訳じゃないんだから、ノー
  トなんて今じゃなくったって」
 カオル「知って欲しいって思って」
 百合「は?」
 カオル「自分のこと知って欲しいて思って」
 百合「それって、私心配してるよって、未憂
  に気づいて欲しいって事?」
 カオル「少し違うかな」
 百合「何が違うのよ」
 カオル「私が未憂だったら、その時何があっ
  たか知って欲しいって、思うから。ほんと
  の自分を知って欲しいって、私だったら」
 百合「……未憂の中学ん時の事知るために行
  ったんだ……未憂のこと信じてんだね」
 カオル「ううん。そんな格好のいいもんじゃ
  ないよ……もっと自己中な人間だよ、私」
 百合「……」
   百合はスマホ画面をカオルに向ける。
 カオル「え」
 百合「これ、今朝拡散されてた」
 カオル「へえ、東翔大の非公式掲示板なんて
  あるんだ」
   カオルの目に飛び込んできたのは、翠が
   未憂の過去のイジメを告発したスレッド
   に始まり、様々な人間からの誹謗中傷が
   溢れ拡散している画面。
 カオル「は? ちょちょちょっと何よこれ。
  え、え、待ってよ」
 百合「……」
 カオル「ホスト狂い? 風俗? 薬物依存?
  無茶苦茶じゃない! 何なのよこれ!」
 百合「声が大きいよ」
 カオル「だって何一つ正しいこと書いてない
  じゃない! 全部でたらめじゃない! 狂
  ってるのはこの人たちでしょ! イジメの
  ことだって……」
 百合「……」
  ×     ×     ×
○(回想)東翔大学・大教室(朝)
   睨み合う百合と翠。
   その近くには登校したばかりのカオル。
 百合「……今イジメがどうとか言ってたけ
  ど、あの子に何したのよ!」
 翠「したんやなくて、されたん、こっちは
  !」
 百合「え……」

翠「されたんはあたしの親友やけどね……中
  学の時のことやった。あの高橋って子、イ
  ジメグループの一人やったんよ。四、五人
  ぐらいのグループであたしの親友の愛美を
  イジメてた。あたしと愛美は小学校の時か
  らの親友やったんやけど、中学ではずっと
  クラスが違ごうてしもて。そやからちっと
  も気づいてあげられんくて……」
 百合「……」
 翠「……自殺するまで」

 百合「え」
 カオル 「⁉︎」
 翠「当然大問題になって。イジメのリーダー
  はすぐに転校させられたし、それ以外の子
  らも卒業するまでずっと肩身の狭い思いし
  とったわ」
 百合「じゃ、未憂も」
 翠「違うわよ! あの子は逃げたんや! 
  『私はイジメなんかしてません』って。
  は、何言ってんのこいつ、ってみーんな思
  とったわ。一日中そのグループでつるんど
  ったくせにどの口叩いとんねんって。学校
  中の生徒だけやなく、先生たちも呆れとっ
  た。イジメのリーダーより質が悪いって」
 百合「う、そ……」
 翠「最後まで謝れへんまんま、どっかに引っ
  越したらしいけど。卑怯もんは最後まで卑
  怯もんやったっていうこと!」
 カオル・百合「……」
  ×     ×     ×
(回想戻る)電車内
 百合「未憂のお母さん言ってたよね。一番悪
  いのは知ろうとしない人たちだって」
 カオル「……」
 百合 「私たち、何を知らないんだろ」
 カオル「……」

2話ー⑥へ続く   

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