『グラデーション』2話ー登場人物
式部カオル・薫(19) 東翔大学1年生
弓道部
FTM※1・レズ
我妻早希(22) 同大学4年生・弓道部副部長
バイセクシュアル
佐分利玲央(22) 同大学4年生
早希のゼミ仲間
MTF※2・ゲイ
アロマンティック※3
立花百合(19) 同大学1年生・カオルの学友
高橋未憂(19) 同大学1年生・カオルの学友
芹沢夏生(33) 同大学准教授
弓道部、アニメ同好会顧問
雨宮陽斗(16) 高校1年生
カオルの家庭教師生徒
石原翠(19) 同大学1年生
未憂の中学時代の同窓生
八代健(29) 怜央のセフレ・ゲイ
リラ(20) 同大学2年生
ストリートシンガー
インド人の父親と日本人の母親
のダブル
高橋憂子(43) 未憂の母親(シングルマザ
ー)
式部大介(48) カオルの父親
式部智美(45) カオルの母親
(※1)FTM→心が男性、身体が女性
(※2)MTF→心が女性、身体が男性
(※3)アロマンティック→他人に恋愛感情は
抱かないが性的感情は抱く。
『グラデーション』2話−①
○ 道(夜)
夜明け前。
新聞配達をしている未憂。
○ 東翔大学・弓道部(朝)
弓道部の朝練。
副部長・早希と並んで弓を引くカオル。
○ 秋葉原・街中
休日、オタク仲間とアキバ巡りをしてい
る百合。
同じ頃、准教授・芹沢夏生(33)の姿も
秋葉原にある。
○ 雨宮陽斗の部屋(夜)
雨宮陽斗に勉強を教えているカオル。
○ 未憂の自宅・ダイニング(夜)
母・憂子(43)と楽しい夕食。
大学生活や、カオルや百合のことを話し
ている。
○ 東翔大学・校門〜キャンパス内(朝)
登校する学生たち。
カオル・百合・未憂たちも校内で合流す
る。
カオル・百合・未憂「お早よー!」
○ タイトル『グラデーション・2話』
○ 東翔大学・大教室(朝)
授業前、佐分利怜央の話で盛り上がる3
人。
未憂「(欠伸)あそうだ。ねえ、あの後どう
なったのよ?」
カオル「あの後って?」
未憂「だから、カエルの王子様」
× × ×
(1話の回想)
○ 同・キャンパス内
学食へ向かうカオル、百合、未憂。
未憂「ねえねえ。で、どうなのよ?」
カオル「何が?」
未憂「カオルの王子様」
百合「カエルの王子様?」
カオル「?」
未憂「カオルを助けったていうチョコレート
屋さんだよ……」
(回想終わり)
× × ×
カオル「はあ? 何言ってんの。どうもなる
訳ないでしょ。それに、そのカエルの王子
様ってやめてくんない。先輩にも失礼だ
し」
未憂「だって、カエルの危機一髪を助けてく
れたんだから、そりゃ王子様でしょうが」
カオル「いや、その部分じゃないから。いつ
私が哺乳類から爬虫類になったんだよ」
百合「いやいや。カエルは両生類」
カオル「それに今どき王子様って平成か!
懐メロはカラオケだけにしといてよね。王
子様求めてる女子なんて、もはや絶滅危惧
種だよ」
百合「え……そ、そうなの?」
百合の反応に思わず百合の顔を見る2
人。
未憂「百合、まさかあんた、そうなの?」
百合「いや……それは……」
カオル「へー。百合って白馬の王子様待つタ
イプだったんだ(笑)」
未憂「もー百合ちゃんたら。可愛いー(笑)」
百合「あー、うるさーい。今話してるの、私
じゃなくカオルの話でしょ(笑)」
盛り上がる3人。
翠「朝っぱらからうるさい思たら、まさかこ
んなとこで再会するやねんてね」
不意に3人の後方から、低い大阪弁で、
友人と現れる石原翠(19)。
カオル・百合・未憂「えっ」
思わず振り返る3人。
初対面の翠に戸惑うカオルと百合。
一方未憂は、翠の姿を見て、顔が青ざめ
ていくように大きく動揺する。
翠「久しぶり、高橋未憂さん。あたしのこと
覚えてる?」
未憂「……」
翠「楽しそうなキャンパスライフで何よりや
わ。きっと、愛美も喜んでるんちゃうか
な。ずーっと遠くに行ってしもたけど」
未憂の呼吸が荒くなる。
百合「ん? どうした? 未憂」
翠「それじゃ」
翠の友人「誰?」
翠「おんなじ中学やった子……」
友人と談笑しながらその場を離れる翠。
百合「何、今の」
未憂「ごめん」
鞄を抱えて教室を飛び出していく未憂。
戸惑うカオルと百合。
○ 同・中教室(日替わり)
韓国語の授業を受けている百合。
教壇では夏生が教鞭をとっている。
夏生「……いいですか。このパッチムは日本
語の〈ん〉や小さい〈つ〉みたいなものだ
と理解して下さい。ですから読み書きだけ
でなく、きちんと声に出して覚えるように
して下さいね、分かりましたか。では、今
日はここまでにします」
学生たちが各々教室を出て行く。
百合も同様に席を離れようとする。
夏生が百合に近づいてくる。
夏生「立花さん、でしたよね?」
百合「え。あ、はい」
夏生「あ、ごめんなさい、いきなり。立花さ
ん、このあいだの日曜日、秋葉原にいませ
んでしたか? アニメランドにあるK -アニ
メのコーナーに」
百合「ああ……はい」
百合は夏生を訝しむ。
夏生「あ、違うんです。怪しくないです。あ
の僕、この大学でアニメ同好会の顧問もし
てまして」
百合「も?」
夏生「あ、はい。弓道部と掛け持ちという意
味で」
百合「あー」
夏生「ここだけの話、弓道部の方はお飾りな
んですけど、アニメ同好会はほぼ趣味で
して、はは」
百合「趣味?」
夏生「はい。で、もし立花さんさえ良ければ
うちのアニ同にいかがかと。僕が立ち上げ
たばかりのまだ日の浅い同好会なんですけ
ど。場所は三号館の502号室です。ぜひお
待ちしております」
夏生は言葉を残して教室をでていく。
突然の勧誘に戸惑う百合。
○ 同・弓道部室
ロッカールームで道着に着替えているカ
オルと早希。
カオル「……へー。アニメのキャラだったん
ですね、研究室にあったあのフィギュア」
百合「そ。なかなかの筋金入りらしいよ、芹
沢先生。高校生ん時に学校に頼み込んでア
ニメ部作らせたって言ってたし。この大学
でも漫画部とか映像研究会とか似たような
もんはあるのに、なんの拘りだかしんない
けど自分で新しくアニメ同好会っての作っ
て、そこの顧問に収まってる。私も一瞬勧
誘されたし」
カオル「へー」
早希「ここには滅多に顔出さないくせに、向
こうは毎日だって。で、暇あったらアキバ
巡りやってんだってさ」
カオル「あちゃー、はは。でも、研究室が部
室ですもんね」
早希「そうなんだけどねー。こっちは常に全
国目指してるちゅうに。もう少し顔出せち
ゅうに」
カオル「燃えてますねー、副部長」
早希「当然。もうすぐ引退だし、後輩たちに
伝える事が山のようにあるんだから。覚悟
しときなさいよー、式部」
カオル「はい!」
部室を出て行く二人。
○ 電車・車内
帰宅中の未憂。
何か怯えた様子。
2話ー②へ続く