『グラデーション』1話ー⑦

グラデーション1話 ー ⑦

『グラデーション』1話ー⑦

○ 東翔大学・弓道場(朝)
   弓道部の朝練風景。
   その中、一心不乱に矢を放つカオル。
   駆け込んでくる早希。
 早希「式部ー! いるー! あ式部! 大
  丈夫か!」
 カオル「お早うございます」
 早希「おはよう、じゃなないよ! 怪我は
  ?」
 カオル「えっと……」
 早希「昨夜、連絡もらった。けど式部、ち
  っともケータイつながらないから」
 カオル「すみません、昨夜はずみで壊れちゃ
  って」
 早希「そっか、で、怪我は? 練習なんかし
  て大丈夫なの?」
 カオル「はい。突き飛ばされただけなんで。
  すぐ近くのチョコレート屋さんが助けてく
  れて。その後警察に呼ばれて事情聞かれて
  帰ったんですけど、ベッドに入ったら急に
  不安になっちゃって。それで眠れなくなっ
  て。そのまま朝に。布団に入るまでは何と
  もなかったのに」

 早希「……分かった。怪我してないんだった
  らいい。実はさっきここにくる前に顧問に
  確認したら、捕まったって、清」
 カオル「え、そ……そうなんですね。あの、
  有田さんって……」
   そこへ百合と未憂が現れる。
 未憂「いたいた。カオルー。授業始まるよ
  ー」

○ 同・キャンパス内
   昼休み、学食へ向かうカオルと百合と未
   憂の3人。
 未憂「何それ、訳わかんない。その有田って
  人、この前会った人でしょ。最悪」
 百合「しかし、よく無事だったよね。カオ
  ル、普段からパンツってのもあるけど、
  かすり傷一つしてないなんて」
 カオル「はは、だね」
 未憂「ねえねえ、で、どうなのよ?」
 カオル「ん? 何が?」
 未憂「カオルの王子様」
 百合「カエルの王子様?」
 カオル 「?」
 未憂「カオルを助けったって言うチョコレー
  ト屋さん。イケメン? 背は高い? マッ
  チョ?」
 カオル「王子様っていうか、イケメンとかそ
  んなタイプの人では……」
 未憂「じゃどんなタイプよ、ね、ねっ」
 百合「必死だな、おい」
 カオル「んー。理由は分かんないんだけど、
  知ってたんだよね」
 百合「何を?」
 カオル「私の名前」
 未憂「げ、ストーカータイプ」

○ 同・学食内
   ゼミ仲間と昼食を取っている早希。
   カオルたちが入ってくる。
   カオルに気づく早希。
 早希「ごめん、ちょっと席外すね。式部
  ー!」

    ×     ×     ×
   テーブルにカオルと早希。
   隣のテーブルには百合と未憂。
 早希「……で、顧問のとこにはちゃんと行っ
  た?」
 カオル「はい。授業が始まる前に。教授室っ
  て、初めて入ったんですけど、なんかフィ
  ギュアが一杯あって」
 早希「(笑)教授室って言っても准教授だけ
  どね。あれ、オタクなの」
 カオル「へー」
 百合・未憂「へー」
 早希「顧問たってただのお飾りだけどなんだ
  けど。ただ今回は警察沙汰だったし、さす
  がに報告しないわけには。何か言われた
  ?」
 カオル「いえ、大して。怪我はしてないかっ
  て。それとこれからは気をつけるようにっ
  て」
 早希「そうだね。警察沙汰は部の活動にも支
  障が出ることがあるからね」
 カオル「あ! すみません! あ、あの、部
  の方に何か迷惑を……活動停止とか……」
 早希「はは、大丈夫。ぎりぎりだったけど清
  には辞めてもらった後だったから。それに
  式部は被害者なんだから、謝る必要なんか
  ないよ。むしろ謝るのはこっち。もっと早
  く対処してたらこんな事には。それも二度
  も。本当に申し訳なかった」
 カオル「あ、あの。有田さんの目って……」
 早希「ああ、知ってたんだ……うん、去年の
  夏休みだったんだけどね。駅前で中学生が
  ヤンキーに絡まれてたんだって。それを清
  が助けに入ったんだけど。その時もらった
  顔面パンチの当たりどころが悪かったらし
  くて……片目でもできないって訳じゃない
  んだよ、弓道って。慣れるまでには時間は
  かかるけど、頑張ってトレーニングして、
  続けてる人はたくさんいるし。ただ、清、
  うちのエースだったんだよね。ああ見え
  て」
 カオル「……」
 早希「残り一年もない時間の中で、とても大
  会までには間に合わなくって……切れっち
  ゃたんだよね、プツリと」
 カオル「そう、だったんですね」
 早希「幽霊部員でも、せめて籍だけでも置い
  たまま卒業させてあげたらって、思ったん
  だけど。あー甘かったー」
 カオル「優しいんですね」
 早希「本当に悪かった、式部」

 カオル 「(あっ)」
   いつの間にか、早希の背後に怜央が立っ
   ている。
 早希「ん? 式部?」
   早希の後頭部を軽く叩く怜央。
 早希「痛っ」
 カオル「チョコレート屋さん……」
   百合と未憂が思わず怜央の顔を見る。
 百合・未憂 Ⓜ︎「出た! カエルの王子様!」

怜央「どう調子は? 大丈夫?」
   カオルは立ち上がる。
 カオル「は、はい! 昨夜は有難うございま
  した。おかげさまで助かりました。本当に
  有難うございました」
 怜央「いいのいいの(笑)」
 早希「こいつ私と同じゼミの佐分利怜央。昨
  夜連絡くれたのもこいつ」
 カオル「あっ」
 怜央「うん。有田のことは早希から聞いてた
  から。ま同じ四年だし、良くない噂も色ん
  な所からちらほら。それに式部さんのこと
  もね」
 カオル「え、私のこと?」
 怜央「面白い子が入ったって、新歓の写真を
  見せてもらって(笑)」
 早希「はあ? 面白いなんて言ってないでし
  ょ。ほんといい加減なんだから。てか、怜
  央、あんた大丈夫なの? 田中先生、怒っ
  てたよ。今度無断欠席したら単位は無しだ
  って」
 怜央「だから来てるでしょ、這いつくばっ
  て」
 早希「何が這いつくばってよ。どうせ昨夜だ
  ってゲームで徹夜だったんでしょうが」
 怜央「(笑)あ、そうだ。これ」
   怜央は〈Gradation〉のロゴの入った紙
   袋をカオルに渡す。
 カオル「これって」
 怜央「昨夜、せっかく買ってくれたチョコ、
  台無しになったでしょ」
 カオル「あ、ありがとうございます。えっ
  と、おいくら」
 怜央「(笑)いいっていいって。二度ももら
  えないよ」
 カオル「でも助けてもらって、こんな事ま
  で」
 怜央「じゃ、私からご褒美。一ヶ月頑張っ
  た」
 カオル「……」
   百合と未憂が「おいおい」と小突きあっ
   ている。
 早希「何よ怜央。随分とカッコいい事してく
  れてんじゃん。一丁前に他人ひとに気を遣える
  ようになっちゃって(笑)」
 怜央「いやいや。遣えるから、元から」
 早希「何言ってんのよ。他人たにんに全く興味のな
  い人間が」

怜央「はあ? 他人の心に土足で入ってくる
  ような人間には言われたくありませんね
  ー」
 早希「誰が土足で入るってー!」
 カオル「……」
   楽しくやり合う早希と怜央。
   そんな二人をどこか複雑な表情で見てい
   るカオル。
   そんなカオルを、面白がって見ている百
   合と未憂。

  *参照 Ⓜ︎ → モノローグ(心の声)

第一話終わり

第二話−①へ続く

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