『グラデーション』3話ー登場人物
式部カオル・薫(19) 東翔大学1年生
弓道部
FTM※1・レズ
我妻早希(22) 同大学4年生・弓道部副部長
バイセクシュアル
佐分利玲央(22) 同大学4年生
早希のゼミ仲間
MTF※2・ゲイ
アロマンティック※3
立花百合(19) 同大学1年生・カオルの学友
高橋未憂(19) 同大学一年生・カオルの学友
リラ(20) 同大学2年生
ストリートシンガー
インド人の父親と日本人の母親
のダブル
芹沢夏生(33) 同大学准教授
弓道部・アニメ同好会顧問
高橋憂子(43) 未憂の母親
石原翠(19) 同大学1年生
未憂の中学時代の同窓生
愛美(14) 未憂の中学時代の同窓生(回想)
佐分利誠(55) 怜央の父親・開業医
雨宮陽斗(16) 高校1年生
カオルの家庭教師生徒
八代健(29) 怜央のセフレ・ゲイ
立花菫(44) 百合の母親
立花享(38) 百合の父親(義父)
式部大介(48)カオルの父親・神主
式部智美(45)カオルの母親
(※1)FTM → 心が男性、身体が女性
(※2)MTF → 心が女性、身体が男性
(※3)アロマンティック → 他人に恋愛感情
は抱かないが性的感情は抱く。
『グラデーション』3話ー①
○ 葬儀場・入り口
看板には『高橋未憂』の名前
○ 同・祭壇前
小さな家族葬。
疎な人の出入り。
焼香をあげているカオルと百合。
今も何が起こったのか理解できず、悲し
みより茫然自失の二人。
遺族に会釈し、立ち去ろうとする二人。
不意に未憂の母・憂子が呼び止める。
○ 同・控室
神妙な面持ちで優子の話を聞いているカ
オルと百合。
○ ファミレス店前
喪服姿の自分達に、入店を躊躇うカオル
と百合。
百合「どうする?」
カオル「この服じゃ、ね」
百合「帰ろ、っか」
二人はそれぞれの帰路へ。
○ タイトル『グラデーション・3話』
○ 東翔大学・弓道場
次々と矢を射るカオル。
が、何本も的を外す。
カオルの様子を気に掛ける早希。
(回想・未憂の中学時代①)
○ 町中・路上
憂子Ⓝ「始まりは未憂が中学2年夏休みでし
た……」
私服姿の女子中学生たちが屯し、夏休み
を謳歌している。
その中には、未憂の笑顔もある。
(回想終わり)
○ 東翔大学・芹沢研究室
アニメ同好会の活動をする学生たち。
一人ぼんやりしている百合。
その様子を気に掛ける夏生。
(回想・未憂の中学時代②)
○ 未憂の中学校・教室内
授業中。
後ろの席からコンパスの針を刺される未
憂。
苦痛と悔しさに耐える未憂。
(回想終わり)
○ 陽斗の部屋(夜)
陽斗の家庭教師中のカオル。
が、ふと頭を過ぎる未憂の過去。
(回想・未憂の中学時代③)
○ 未憂の中学校・女子トイレ内
複数の女子生徒が愛美(14)をいじめ
ている。
いじめのリーダーのそばで何もできない
未憂は悲痛に苛まれる。
(回想終わり)

○ 百合の家・ダイニング(夜)
父・享(38)、母・菫(44)と家族団
欒の夕食風景。
一人暗い百合。
享「百合ちゃん、どうしたの? 箸すすんで
ないけど」
百合「……」
(回想・未憂の中学時代④)
○ 未憂の中学校・廊下
廊下を我がもの顔で歩くいじめグルー
プ。
周囲の生徒たちは遠巻きに疎ましい視線
を送っている。
その中で一緒に歩く未憂の顔だけは深く
沈んでいる。
(回想終わり)
○ カオルの部屋(夜)
テレビを見ているカオル。
が、心ここにあらずのカオル。
× × ×
(回想・未憂の中学時代⑤)
○ 部屋内(いじめグループ誰かの)
いじめグループの女子たちに、両手両足
を押さえ込まれている未憂。
リーダーが未憂のスカートを捲り上げ、
たばこの火を太ももに押し付ける。
口を塞がれた未憂は苦痛に顔を歪める。
× × ×
部屋に残された未憂は、ぐったりと横た
わったまま涙を流す。
そばには、同じようにぐったりとボロボ
ロに憔悴しきった愛美が嗚咽をあげてい
る。
愛美「……もう……いやや……」
未憂「……」
(回想終わり)
× × ×
テレビを見ているカオル。
テレビからは賑やかな笑い声。
カオルの目から涙が落ちる。
○ 東翔大学・中教室
受講しているカオルと百合。
× × ×
(回想・未憂の葬儀)
○ 葬儀場・控室
カオルと百合に中学時代の未憂の話を続
ける憂子。
憂子「……きっかけなんて分かりません。本
人に聞いても、何も心当たりがないと。あ
る日気づいたら端っこに追いやられていた
って」
カオル「端っこ?」
憂子「グループの端っこです。だったらいっ
そのことグループから追い出してくれたら
よかった。いじめグループの中でいじめら
れる。側から見たらふざけ合ってるように
しか見えなかったでしょうね」
百合「そんなグループさっさと抜ければよか
ったんじゃ」
憂子「どこにですか?」
百合「え」
憂子「学校。ましてや教室という限られた世
界の中で逃げる場所なんてありませんよ。
すぐにいじめの網に絡め取られるのがおち
です。それに、ハブられてボッチになる方
が怖いって言ってました」
カオル「ボッチ」
憂子「ずっといじめられてた訳でもなかった
みたいです。連中の機嫌のいい時は友達っ
ぽい関係だったって」
百合「そんな。火傷させられてるんですよ
ね。それってただの傷害じゃないですか。
警察沙汰ですよ。学校には言わなかったん
ですか?」
憂子「もちろん言いました。でもいじめグル
ープの中にいた未憂の事なんてはなから信
じてもらえず。そしたらすぐでした。別の
いじめられてた生徒さんが亡くなられたの
は」
× × ×
(フラッシュバック※)
校舎から飛び降りる愛美。
× × ×

カオル・百合「……」
憂子「……さすがに学校は認めましたよ、あ
っさりと。幕引きもあっという間でした。
いじめグループのリーダーは転校。残りの
生徒は数日間の出席停止。でも認めたのは
亡くなった生徒さんへのいじめだけで、未
憂は出席停止の一人でした」
カオル「え、なんで」
憂子「もちろん私たちは何度も学校に抗議し
ました。でもいつまでも長引かせたくなか
ったんでしょうね。学校としては、傷が浅
いうちに終わらせたくて仕方ない様子でし
たから……出席停止という事実は未憂もい
じめの加害者だという烙印を押すには十分
な処分でした」
カオル「その後ですか……未憂が、高橋さん
が東京に転校されたのは」
憂子「はい。諦めました。学校を説得するの
は無理だと。何より未憂が限界だったんで
す。これ以上続けていると未憂の心が壊れ
てしまいそうで……ずっと謝ってたんで
す、あの子。すぐそばにいたのに助けてあ
げられなくてごめんね、って」
カオル・百合「……」
憂子「1日も早く環境を変えなくてはと思っ
て、こちらにいる友人を頼って」
カオル「東京に来る前に住んでたのって、大
阪ですか?」
憂子「はい。あの子から聞いたんですか?」
カオル「あ、いえ。ただポロッと『飴ちゃ
ん』て。それと同じ中学だったっていう子
が大阪弁喋ってたんで」
憂子「そうですか、ふっ。『飴ちゃん』です
か。ずっと隠してたんですけどね。大阪の
頃の事は全て忘れようとして。よほどお二
人に気を許してたんですね。高校生の頃は
ずっと友達作るの怖がってたんですよ。特
に同性の。だからなのか、アルバイトは一
人でできる新聞配達とか、あとずっと年上
の大人ばかりいるお弁当の工場とか」
百合「そう、だったんだ」
憂子「だからお二人に出会えたことをとても
喜んでいたんですよ、友達が一度に二人も
できたって。式部さんのお家に遊びに行く
んだとか、カラオケで何曲も歌って大はし
ゃぎしたとか。本当に何年振りだったかし
ら、あの子の本当に幸せな笑顔」
カオルと百合は涙を堪える。

憂子「以前お二人がうちに来られた時におっ
しゃってましたよね、本当のことが知りた
いって。(次第に涙声)ああ、これでやっ
と言える。未憂が友達だって言ったお二人
に本当のことが言える、信じてもらえる、
そう思ってたのに(嗚咽)……未憂の友達
でいて下さって、本当にありがとうござい
ました」
深く頭を下げる憂子。
カオル・百合「……」
(回想終わり)
× × ×
講義が終わり三々五々教室を出て行く学
生たち。
カオルと百合だけがいつまでも残ってい
る。
※参照 フラッシュバック → 物語の進行中に
過去の出来事が挿入されること
3話ー②へ続く