『グラデーション』2話ー④
○ グラデーション店内(夜)
ドアが開く。
怜央「いらっしゃい」
カオルが入ってくる。
カオル「どうも」
怜央「バイト代、出ましたか? ふふ」
カオル「はい。今月も何とか乗り切れまし
た。はは」
空元気な微笑のカオルはショーケースを
覗き込む。
怜央「何かお目当ての物でもありますか?」
カオル「お目当て……ですよね……お目当て
……」
怜央「……」
カオル「……あの、先輩」
怜央「何でしょ、後輩」
カオル「友達を大切にするって、どうするん
でしょ?」
怜央「ん? ここチョコレート屋なんですけ
ど。人生相談だったら新宿に有名な占い師
がいるし、何だったらこども電話相談室の
番号教えてあげようか? (笑)」
からかうように答える怜央に膨れっ面に
なるカオル。
カオル「ですよね。場所間違えました。もう
いいです」
怜央「あーごめんごめん。ん? どした。友
達と何かあったの?」
カオル「いいです……ナッツショコラ下さ
い」
怜央「ねーカオルちゃーん。聞くよ聞くよ。
カオルちゃんの悩み聞くよー」
カオル「それウザイです。そんなだから副部
長にウザがられるんです」
怜央「え、それ言っちゃう。早希のことも言
っちゃう。チャウチャウとちゃうんちゃ
う?(下手な大阪弁)」
カオル「……」
○ ゲームセンター店内(夜)
ガンシューティングゲーム前に立つカオ
ルと怜央。
銃型コントローラーで次々と敵キャラを
倒していく二人。
苦戦しながらも平均スコア以上を出す怜
央。
一方、余裕の顔でパーフェクトスコアの
カオル。
怜央「よし! まーこんなもんでしょ。ど
う? 式部さんは」
カオルのスコアを見る怜央。
怜央「まじ……」
カオル「あー、くやしー! 一人逃しちゃい
ました」
怜央「はは、式部さんて撃つの上手だね。弓
も銃も」
× × ×
フードコーナーでドリンクを手にしてい
る二人。
怜央「どう? 少しは気晴らしになった?」
カオル「はあ、まあ。先輩はいいんですか?
バイト、途中で抜けてきちゃって」
怜央「たまにはね」
カオル「たまには?」
怜央「そだよー。こう見えても私バイトリー
ダーっす。シフトは常にラストまで入って
るっす」
カオル「だったら今夜も」
怜央「まー今夜は暇だったし。それに私もう
すぐ卒業でしょ。残ってる子たちにもそろ
そろラストの仕事覚えてもらわないと、だ
し」
カオル「引き継ぎ、ですか?」
怜央「みたいなもんかな。少し早いけど……
どした? あの二人と喧嘩でもした?」
カオル「喧嘩とは少し違くて」
怜央「ふーん、そっか……大切にしたい友達
がいるっていいよね。でもねー私友達少な
いからなー。友達を大切にする方法って聞
かれてもピンとこないのよねー」
カオル「……なんですね。やっぱり相談する
相手を間違えたみたいです。帰ります。失
礼します」
怜央「こらこら若者よ、簡単に諦めるな」
カオル「だって友達少ないから分からないっ
て」
怜央「確かに友達は少ない。でも大切なモノ
って友達だけじゃないでしょ」
カオル「……」
怜央「友達以外の人とか、趣味とか、何か物
とか、あと考え方とか色々あるんじゃな
い? 誰にも譲れない、そんな大切なモノ
と同じように考えてみたら? 友達も」
カオル「私の譲れないモノ、ですか……」
○ カオルの部屋(夜)
腕立て伏せに精を出すカオル。
カオル「ふん! ふん! ふん!」
そして崩れる。
カオル「はー(ため息)」
カオルの目に入ったのは、壁に立て掛け
られた姿見に映った自分の顔。
カオル「……」
自分の顔を見つめ続けるカオル。
○ 未憂の部屋(夜)
机の引き出しから一枚のプリクラ写真を
取り出す未憂。
未憂「……ごめんね……愛美……」
涙が溢れる未憂。
未憂のスマホに通知音。
○ 翠の部屋(夜)
PCモニター前の翠。
画面は〈東翔大学非公式掲示板〉。
未憂の中学時代のイジメを告発する記事
を書き込む翠。
2話ー⑤へ続く