『グラデーション』2話−③

グラデーション2話ー③

『グラデーション』2話ー③

○ 未憂の部屋(夜)
   明かりのない部屋の隅でうずくまる未
   憂。

○ 東翔大学・大教室
   カオルと百合が並んで受講。
   そこに百合の姿はなない。
   未憂の空席を気に掛けるカオルと、無関
   心を装う百合。

○ 同・芹沢研究室・ドア前
   三号館502号室。
   ドアをノックする百合。

○ 同・同教室内
   部屋に入室する百合。
 百合「失礼しまーす。ん? うわー」
   所狭しと並んでいるフィギュアにテンシ
   ョンが上がる百合。
 夏生「いらっしゃい。ようこそアニメ同好会
  へ」
   笑顔で迎える夏生。
   フィギュア一体一体を物色するかのよう
   に見ている百合。
 夏生「立花さん、お一人……ですよね?」
 百合「はい。どうしてですか?」
 夏生「いや、お友達も一緒だと嬉しかったな
  ーなんて、期待しちゃったもんですから」
 百合「ああ。でもカオルは弓道部ですよ。先
  生弓道部の顧問もやってるんですよね。式
  部カオル、知りませんか?」
 夏生「はい。式部さんはよく存じておりま
  す。私が言ってるのはもう一人の」
 百合「ああ……未憂……」
  ×     ×     ×
   着席している百合と夏生。
 夏生「お友達の未憂さん、心配ですね」
 百合「……見損ないました」
 夏生「……」
   夏生スマホを操作する。
 百合「もっとちゃんとした子だと思ってたの
  に。いじめなんてサイテーな事する子だな
  んて」
 夏生「それは、自分自身への戒めですか?」
 百合「え?」
   夏生はスマホ画面を百合に向ける。
 夏生「見損なう〈物事を間違ってみる事〉
 〈評価を見誤る〉と出ています。つまり立花
  さんの見る目がなかった、節穴だったとい
  う自戒の念でしょうか」
 百合「そんな。何か私が悪い事したみたい
  な。私何もしてませんけど」
 夏生「もちろんです。ただ」
 百合「ただ?」
 夏生「人間を評価するなんて、そんな簡単な
  事ではないんじゃないでしょうか。まして
  や三人が出会ってまだ二ヶ月足らず。始ま
  ったばかりの関係に、結論を出すのは早計
  だと思いますよ」
 百合「だって、人が死んだって」
 夏生「そうですね。さすがにそれは本当の事
  かもしれません。でも、時に事実は真実を
  曇らせてしまうことだってあります」
 百合「……」
   夏生はスマホを再び掲げる。

 夏生「キリトリ記事のような誰かの分かり易
  いタイトルより、ご自身の目で見たものを
  信じてみる、というのじゃ駄目ですか?」
 百合「……」
 夏生「あれっ」
   窓の外に目を遣った夏生は思わず立ち上
   がり窓際に立つ。
 夏生「立花さん、傘持ってきました?」
 百合「……」
   窓を雨粒が打つ。

○ 同・弓道部部室前
   突然の雨に足止めされるカオル。
   そこへ、部室から早希が出てくる。
 早希「おー式部。どしたー。傘忘れたかー」
   傘を広げる早希。
 カオル「はい、最悪です。でもすぐ止みます
  よね」
 早希「ほれ、入れ。駅まで相合傘だ」
 カオル「えっ」
 早希「ん? どした?」
 カオル「……いえ……」
   照れ臭く傘に入るカオル。


○ 道
   相合傘で駅へ向かうカオルと早希。
 早希「カテキョー、どう? うまくやれてる
  ?」
 カオル「あ、はい。ありがとうございまし
  た。ほんと助かりました」
 早希「聞いたよー。飢え死にするとこだった
  んだってー(笑)。あんま無理しちゃ駄目
  だよ。じゃなきゃ、また拉致られても知ん
  ないよー(笑)」
 カオル「いや、もう勘弁して下さい。本当に
  反省してますから」
 早希「ははは、ごめんごめん。でも、ちょっ
  と心配してんだ、式部のこと」
 カオル「私のこと?」
 早希「新歓の時、断ってたでしょ、清のビー
  ル」
 カオル「あーはいはい」
 早希「なかなかあそこまではっきり先輩のお
  酌を断る子いないからね。一杯ぐらいなら
  って」
 カオル「いやー、親に口すっぱく言われてる
  もんで。お酒だけは気をつけろって」
 早希「うん、だからよ。そんな子が稼げるか
  らって、甘い言葉で簡単に釣られちゃうん
  だから。それもお酌を断った清の言葉に」
 カオル「そーですよね、面目ない……ちょっ
  と焦ってたかもしれませんね」
 早希「入り用なんだって?」
 カオル「それも佐分利さんから?」
 早希「そ。何か目的でもあんの? お金貯め
  て」
 カオル「はあ、まあ」
 早希「そっか。ま目標があるのは良いこと
  だ」
   早希は、カオルが怜央に見せた〈ガンバ
   レ〉のポーズをカオルに見せる。
 カオル「今の」
 早希「怜央、喜んでたよ。ありがと、って」
 カオル「……副部長って佐分利さんんと仲良
  いんですね」

 早希「そだねー。ゼミが一緒ってのもあるけ
  ど、二人ともお酒好きだしね。てか怜央に
  お酒教えたの私だし。ちょくちょくしてく
  るウザ絡みが面倒い奴なんだけどねー
 (笑)」
 カオルⓂ︎「やっぱり副部長もっずっと呼び捨
  てなんだよな」
 早希「式部も友達、大切にしろよ」
 カオル「はい」
   降り止まない雨。
   ぴたりと早希に寄り添えないカオルの片
   側の肩は濡れている。

○ 未憂の部屋(夜)
   明かりのない部屋で引きこもる未憂。
   未憂が注視しているスマホ画面には〈東
   翔大学・非公式掲示板〉の文字。
   そこにカオルからのライン。
   〈元気出して!〉〈待ってるよ!〉

  *参照 Ⓜ︎→モノローグ(心の声)

2話ー④へ続く

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