『グラデーション』2話ー②

グラデーション2話ー②

『グラデーション』2話ー②

○ 電車内(日替わり・夜)
   就活面接から帰宅途中の怜央。
   上下スーツ姿に崩れたメイク。
   ネクタイを緩め、大きくため息を吐く。
   電車のドアが開き、カオルが乗り込んで
   くる。
 カオル「あ、佐分利先輩」
 怜央「ん。ああ、式部さん」
   怜央の隣に腰を下ろすカオル。
 カオル「その格好は?」
 怜央「就活。式部さんはバイト? カテキョ
  やってんだって?」

 カオル「はい。高一の男の子です。副部長の
  おかげで助かりました。飢え死にせずに済
  みそうです、はは」
 怜央「え。でも実家からちゃんと仕送りして
  もらってんでしょ? 神社やってるって聞
  いたよ、早希から」
 カオル「まあ、そうなんですけど。何かと入
  り用で」
 怜央「そっか。何か分かんないけど、式部さ
  んも大変だね」

 カオル「先輩は? 就活うまくいってます
  ?」
 怜央「(大きなため息)」
 カオル「いってないみたいですね。そう言え
  ば、副部長は去年のクリスマスまでには内
  定もらったって」
 怜央「(更に大きなため息)」
 カオル「あー違います違います! そういう
  意味で言ったんじゃなくて。私大学入った
  ばっかで、そういうのよく分かってなくて
  ……やっぱまだ決まってないとヤバいんで
  すか?」
 怜央「ヤバいっていうか……自信なくす」
 カオル「……」
 怜央「自分はこんな人間ですって必死こいて
  アピールしてんのに、うちにはこんな人間
  は必要ありませんて、人間性丸ごと否定さ
  れてるようなもんだし。それこそ過去も未
  来も。時々思うんだよね、嘘、ついちゃえ
  ば楽になんのかなって」
 カオル「……四年後が怖いです」
 怜央「はは。でも式部さんは大丈夫だと思う
  よ。ほら、だって早希は」
 カオル「……」
 怜央「バリバリの体育会系で弓道部の副部長
  やって、おまけに全国出場だもん。そりゃ
  内定出んの早いよ。うん、だから式部さん
  も今から心配なんかしなくてもいいよ。今
  は色んな事目一杯楽しめば、ね」
 車内放送「(駅名)」
 怜央「じゃ、ここで」
 カオル「あ、はい」
   停車した電車のドアを出て行こうとする
   怜央。
   その背中に思わず声を掛けるカオル。
 カオル「先輩!」
   〈ガンバレ!〉のポーズをするカオル。
   怜央、カオルの不意のポーズに少し驚
   く。
   ドアが閉まり再び動き出す電車。
 カオル「普通に早希って呼び捨てなんだよ
  な」

○ 東翔大学・キャンパス内(朝)
   キャンパス内を歩く未憂。
   周囲の学生・教職員たちの視線を過剰に
   意識する。

○ 同・大教室(朝)
   席に着いた未憂だが、周囲の視線や会話
   が気になって仕方ない。
   そこへ百合が登校してくる。
 百合「おっ早よー! 未憂」
 未憂「……」
 百合「ん? どした?」
   少し離れた席の翠とその友人たちの会話
   が未憂の耳に届く。
 翠の友人「……えーそーなのー! で、その
  子どうなったのよ」
 翠「どうもこうも。それがひっどいいじめや
  って、もー最悪の結末やってんから。ほん
  ま今頃どこで何してんだか」
   未憂は立ち上がり教室を出て行こうとす
   る。
 百合「(えっ)」
   そこへカオルが教室に入ってくる。
 カオル「あ、未憂。おは、え? ちょちょっ
  と!」
   カオルの横を駆けて行く未憂。
 カオル「ねえ、百合 。今未憂出て行ったんだ
  けど。また気分でも悪くなった?」
   百合は翠の元へと向かう。
 百合「あなた、未憂の何なの? 今いじめが
  どうとか言ってたけど、あの子に何したの
  よ!」
   翠は立ち上がり、詰め寄ってくる百合を
   睨み返す。
 カオル「え、何……」

○ ファミレス店内
   対面に座るカオルと百合。
   呆然と天井を見上げる百合と、テーブル
   に突っ伏しているカオル。
 百合「どう思う?」
 カオル「どうも思えない、てか何も思いたく
  ない」
 百合「だよね」
 カオル「あの石原って子の言ってる事信じれ
  る?」

 百合「信じたくないけど……死んだって言わ
  れたら」
 カオル「……」
 百合「私てっきりこっちの子だとばかり思い
  込んでたけど、中学まで大阪だったんだ
  ね。全然大阪弁出さないから」
 カオル「それだけ忘れたい過去だったんだろ
  うね」
 百合「クラスメイト殺しちゃったらそうなる
  か」
 カオル「ちょっと、言葉選んでよ」
 百合「だって事実でしょ。未憂がクラスメイ
  トの女の子いじめて、その子が自殺しちゃ
  ったんだから」
 カオル「そう、かもしんないけど……」
 百合「見損なった」
 カオル「百合ぃ……」

○ 未憂の部屋(夜)
   明かりのない部屋の隅でうずくまる未
   憂。

2話ー③へ続く

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