『グラデーション』1話ー⑤
○ カオルの部屋(夜)
カオル・百合・未憂の手には炭酸飲料等
のソフトドリンク。
カオル・百合・未憂「カンパーイ!」
3人が囲むテーブルには菓子が二つ三
つ。
(パーティーには物足りない駄菓子的
な)
カオル「何か持ってきてって言ったけど、こ
れはないんじゃない」
未憂「贅沢言うんじゃない。持ってきてやっ
ただけでもありがたく思え(笑)」
百合「ま、あとでご馳走が来るから」
未憂「ほー、ここが初めて一人暮らしする、
女子大生の部屋かー」
百合「何それ」
未憂「だって、私実家だし、このまま東京で
仕事見つけて、結婚なんかしちゃったら、
一生一人暮らしなんてできないもん」
百合「で、一人暮らしが羨ましいって?」
カオル「結構たいへんだよ。私炊事、洗濯、
掃除なんて母親が全部やってくれてたし」
未憂「でもなんか楽しそうだよ。部屋綺麗だ
し」
百合「そりゃ、今は好奇心が勝ってるからね
ー。一年もしないうちにゴミ屋敷になっ
て、デリバリーの毎日だー(笑)」
カオル「いやー、やめてよー(笑)」
百合「だって、ほれ。あそこにまだ引越しの
残骸が」
部屋の隅には片付けきれていない段ボー
ル箱が一つ。
カオル「あれはまだ使う必要がないから。そ
のうち定位置が決まったらちゃんと片付く
から」
百合・未憂「怪しいのー」
カオル「本当だって」
呼び鈴が鳴る。
カオル「あ、来たかも」
玄関に出て行くカオル。
百合と未憂は顔を見合わせ、段ボール箱
の元へ。
未憂「引越しの後、使う必要のない物って
何?」
百合「うーん……卒アル?」
未憂「それは一大事。友人として何が何でも
確認しなければ。カオルの過去を」
二人は段ボール箱を開ける。
百合・未憂「ん?」
いつの間にか二人の背後から見下ろして
いるカオル。
カオル「おまいらー、勝手に他人のプライバ
シー覗くんじゃねーよ」
× × ×
新たに2、3枚枚のピザが載ったテーブ
ルを囲んで。
カオル・百合・未憂「カンパーイ!」
カオル「じゃねーよ! 勝手に段ボール開け
といて」
未憂「おーピザだー」
百合「やっとホームパーティーらしくなって
きたぞー」
カオル「スルーかよ!」
ピザを頬張りながら部屋を見渡す百合。
そしてカオルの顔をじっとみて口を開
く。
百合「カオル、メイクしてる?」
カオル「う、うん。今はしてない。でも、学
校行く時はしてるよ、軽くだけど」
未憂「でも、メイク道具、段ボールん中入れ
たまんまだったよ」
カオル「高校ん時はそれなりに、というかし
っかりやってたんだけどね。じゃないと友
達ん中で浮いちゃう、みたいな」
百合「今は、浮いちゃう、とか思わないん
だ」
カオル「浮いちゃう、より大切な事があるか
ら」
未憂「何よそれ。私は同調圧力には屈しませ
ーん、みたいな感じ。カオルは一人孤独の
砂漠を行くのだー(笑)」
百合「いいねー、我が道をゆくってやつ」
カオル「いやいや大袈裟。二人だってあるで
しょ、そんなの1つや2つ」
百合・未憂「ありましぇーん」
カオル「もー(笑)」
未憂「あ、カオルのテリヤキ頂戴」
カオル「はあ? テリヤキ私まだ食べてない
ー」
未憂「いいじゃーん(笑)」
カオル「あ、こら、だめだってー(笑)」
○ 喫茶店内
テーブルを挟んで守・太の前でうなだれ
る清。
封筒から出した札束を数える太。
隣の席には派手な女が二人お茶をして
る。
清「……」
守「今度はちゃんとした女を見つけてこい
よ。色気もクソもねえガキなんか商品に
なんねえんだからよ。行くぞ」
太「えー。医者が、重傷だー、って。もっと
慰謝料ふんだくれるんすよ」
守「うるせーよ。こういう奴とは、細く長く
お付き合いさせて頂くんだよ。な、学生さ
ん」
店を出て行く守。
太「そういうもんすかねえ。じゃ、こいつら
の分もよろしくな、学生さん」
太と女たちも出て行く。
残された清はきりきりと爪を噛み続けて
いる。
○ カオルの部屋
お泊まり会翌日。
百合と未憂が帰った後、一人片付けして
いるカオル。
× × ×
(昨夜の回想)
ピザを頬張り盛り上がる3人。
× × ×
テーブルを端に寄せるカオル。
シャワーから出てくる百合。
百合「未憂ー、シャワー空いたよー」
歯磨きしている未憂。
未憂「やめとくー。面倒いー」
× × ×
シングルベッドにカオルと百合。
床には未憂。
就寝するもいつまでも止まらないガー
ルズトーク。
百合「ふーん、今もお母さんと二人暮らしなん
だ」
未憂「そ。小学生の時に父親がどこかに女作っ
て出てって、それから。ま、何の面白みもな
い母子家庭(笑)」
カオル「いやいや。母子家庭に誰も面白さ求め
てないから。じゃ、お母さん大変だったんじ
ゃない」
未憂「だねー。私も高校入ってすぐバイト始め
たし」
百合「何の?」
未憂「新聞配達と弁当工場」
百合「ひゃー。高校生のバイト掛け持ちってハ
ード過ぎるんですけど。まじ考えらんない」
未憂「でしょでしょ、私すごいでしょ。褒めて
褒めて、もっと私を褒めてー(笑)」
カオル「こらこら。自画自賛がすぎるぞ」
未憂「この私を誉め殺してー(笑)」
身悶える未憂。
カオル・百合「キモー」
カオル・百合・未憂「(笑)」
(回想終わり)
× × ×
少しぼんやりしているカオル。
カオル「やっぱ、女の子とベッドに入ると緊
張するな……」
ああーっ、と思わず仰向けになる。
カオル「僕って……言えなかった……」
1話ー⑥へと続く