『グラデーション』1話ー④

グラデーション1話 ー ④

『グラデーション』1話ー④

○ 東翔大学・弓道場
   練習風景。
   新一年生たちに基本を教える先輩部員た
   ち。
   一方、経験者のカオルは1人で弓を引い
   ている。
   それを後方から見ている早希。

○ 同・弓道部更衣室
   練習後、着替えている部員たち。
 早希「式部、我流って言ってたけど、様にな
  ってたよ、すごいな」
 カオル「ありがとうございます」
 早希「でもさ、弓道で我流って珍しくな
  い? 地元に教室とかなかったの?」
 カオル「……ありました。というか、私のお
  じいちゃんが教室の先生でした」


 早希「ん? おじいちゃん? じゃ、我流じ
  ゃなく直伝?」
 カオル「いえ、私が射場に立つ頃には、もう
  死んじゃってて。教室を継ぐ人がいなかっ
  たからそのまま潰れちゃったんです。だか
  ら誰もいない道場で、幼い頃見たおじいち
  ゃんの姿を思い出しながら1人で」
 早希「へえ、思い出しながらなんだ。だとし
  たらやっぱすごいじゃん。ちゃんとできて
  るもん」
 カオル「あ、えっと、ネット動画も少し参考
  に」
 早希「ん? 少し?」
 カオル「い、いえ割と……まあまあ……かな
  り……」
 早希「(クスッと笑う)」
 カオル「カッコ良かったんです、おじいちゃ
  ん。足踏みから始まって、胴造り、弓構ゆがま
  え、打起こし、引分け、かい、離れ、残心と
  八つの流れが。今もその美しい姿が心に焼
  きついてて」

×      ×      ×
(回想・カオルのイメージ)
   祖父の流れるような射法八節(弓道のフ
   ォーム)を、そばで幼いカオルが見てい
   る。
   が、祖父の顔ははっきりとしない。
(回想終わり)
    ×      ×      ×
 早希「私も見たかったな、カッコいいおじい
  ちゃんの射法八節」
 カオル「はい」

○ カラオケボックス店・外観(夜)

○ 同・店内(夜)
   カオル、百合、未憂の3人が平成のヒッ
   ト曲を歌っている。
 カオル・百合・未憂「♪……王子様がや
  ってくる……」
   曲が終わる。
   未憂が次の曲を探している。

カオル「懐かしいなー」
   百合がスマホを検索する。
 百合「懐かしいって、今の30年も前の曲だ
  よ」
 カオル「子供の頃、車の中でよくかかってた
  んだ。あと、親とカラオケ行った時も十八おは
  だったし」
 百合「カオルの?」
 カオル「親の」


 

次の曲のイントロが始まり、未憂がマイ
   クを手に取る。
 未憂「♪ー」
 百合「カオルって、出身どこだっけ?」
 カオル「宮城」
 百合「へえ、でもちっとも訛ってないよね」
 カオル「あー、あんま意識したことないか
  も。親も標準語だったのかなあ。親二人と
  も東京にいたことあるって言ってたし」
 百合「やっぱあれかな。大阪の人くらいな
  のかな、方言隠さないのって」
 カオル「あー確かに。大阪弁てどこでも聞く
  よね。あ、でもおじいちゃんは喋ってた、
  宮城弁」

 百合「何て?」
 カオル「だっちゃ」
 百合「だっちゃ?」
   カオルは百合の目を見つめて。
 カオル「好きだっちゃ」
 百合「いやー(笑)」
 カオル「(笑)」
 未憂「おまいらー、私の歌を聴けー!」
 カオル・百合「ごめんごめん(笑)」
 未憂「じゃ、今度カオルの家行こうよ」
 カオル「え、なんでよ、いきなり」
 未憂「そろそろホームシックじゃん。遊
  びに行ってあげるからー」

 カオル「いやいや、まだ一ヶ月も経って
  ないから」
 未憂「お泊まり会しよ、お泊まり会!」
 カオル「だから、まだちゃんと片付いてな
  いから」
  次の曲が始まる。
 百合「♪ー」
 未憂「パーティーしよ、パーティー!」
 カオル「おまいらー、人の話を聞けー!」


 

○ 街中(夜)
   カラオケ帰りの3人。
   チョコレート専門店『Gradation』の
   前を通る。
   カオルは足を緩め、店を気に掛ける。
   百合と未憂は先に進む。
 未憂「おーいカオルー、何してんのー」
 カオル「ううん、何でもないー」
 百合「それじゃ、次の土曜日ね」
 カオル「うん。その代わり何か持ってきて
  よ。私何も作れないから」
 未憂「おう、まかせとけー! (笑)」
 百合「じゃ、あたしこっちだから。また明日、おやすみー」
   百合だけ別れる。
 カオル・未憂「おやすみー」
 未憂「あ、カオル。飴ちゃんあげる」
 カオル「飴ちゃん?」
   鞄から飴を取り出す未憂。
 カオル「サンキュー」  
   2人帰路へ。

○ 東翔大学・校門
   授業を終えた清が友人と出てくる。
   その前に待ち伏せしていた守と太が現れ
   る。
   驚く清。
   守と太の後ろには派手な女が二人。
   やばい雰囲気に清の友人たちはその場を
   離れる。

○  喫茶店内
   逃げられないよう清を囲んで座る守と
   太。
   隣のテーブルには派手な女たちがお茶し
   ている。
 守「おい、太。まだ痛むんじゃないのか」
 太「そうなんすよねー。あれからちっとも女
  と遊べねーし。医者からは『おーこれは重
  症だー(棒読み)』って言われたんだよな
  ー。痛いよー」
   二人の女は吹き出している。
   清はひきつった表情。
 清「あ、あの……診断書とかって……」
 守「一週間後だ。ここに三十万持ってこい、
  同じ時間に」
 清「え⁉︎」
 太「え、じゃねえよ。こっちは『重症だー』
  って言われてんだよ。くくくっ」
 清「で、でも、それは俺じゃなくって……」
 太「てめーが連れてきたんだろうが! あの
  色気もクソもない女をよ! ああーっ! 
  責任取れってんだよ!」

 守「内定はもらったのか?」
 清「内定?」
 太「お前4年なんだろ。就活はどうなんだっ
  て」
 清「……は、はい……もらって……ます」
 守「今は初任給ずいぶんと貰えるらしいな」
   店を出て行く守。
 太「こいつらの分もよろしくなー」
   女たちと出て行く太。
   清はうなだれ、小刻みに震えている。

1話ー⑤へ続く


 

 

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